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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)912号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人蓬田武同青柳盛雄の上告趣意について。

記録を精査すると、被告人は昭和二三年一月一五日現行犯として日光警察署に檢擧され、翌一六日同署司法警察官の取調を受け、次いで同月一七日宇都宮地方檢察廳酒井檢察官の強制處分の請求に基ずき、宇都宮地方裁判所裁判官渡辺好人の勾留訊問により同日勾留されたこと及び日光警察署よりの通報により(但しその通報を受けた日は記録上は不明)、同年一月二三日東京財務局收税官吏大藏事務官小野塚軍二の取調を受け、同日同收税官吏より間接国税犯則者處分法第一三條第二號の事由(「犯則嫌疑者逃走ノ虞アルトキ」との事由)により宇都宮地方檢察廳に告発のあったこと、同月二六日宇都宮地方檢察廳酒井檢察官により宇都宮地方裁判所に公訴の提起が爲された關係にあることが明瞭である。

按ずるに、小野塚收税官吏の告発は、右に明らかなように、被告人が檢察官の強制處分の請求に基ずき身柄の拘束を受けている間に爲されたものであるから、檢察官の意見の如何により何時被告人の身柄は釋放されるかも判らない關係にあったことが明白である。してみれば、被告人は既に勾留されているのであるから逃走の虞れある場合に該當しないとの所論は到底之を採用することを得ないものである。次に右收税官吏の告発の原由たる犯則嫌疑者逃走の虞れありや否やの認定は、當該收税官吏の判斷に任ずることは、間接国税犯則者處分法第一三條の規定の解釋上疑いのないところである。しからばその職權ある收税官吏による法律所定の告発が爲され、次いで檢察官の公訴が提起された本件においては公訴の適法であることは勿論であって、裁判所が事件の実體的審理を爲すことは當然である。若し夫れ當該收税官吏の告発が同官吏の權利の濫用であるとなすにおいては、之が保障救濟は別途に設けられているところであるから、所論のように決して「勝手氣侭切捨御免」等の關係にないことは寔に明らかである。次に所論、原審が辯護人よりの小野塚收税官吏の證人喚問の請求を却下したのは、叙上の關係において、原審はその喚問の必要を認めなかったものと解すべきであるから、このことのため原審に審理不盡の違法ありとは言うを得ないのである。したがって論旨はいずれも理由がない。

よって刑訴施行法第二條、舊刑訴法第四四六條に從い、主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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